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Thistle’s blog

ある中年オヤジの独白

芦村の恋


 「彼女が入院した。難病なんだ…」真顔になった芦村が苦しげに言葉を吐き出す。彼は高校の同級生。中堅ゼネコンに勤めている。
 基本的に治療法のないその病気は、対処療法と延命治療を施しながら死を待つだけのようで、それが明日なのか十年後なのかも予測できないそうだ。
 彼女は芦村に入院を知らせなかった。彼にとってはそれもショック。いや、実はそれがショックなのだろう。

 夫婦生活を長く続けていれば“お父さん”になってゆく。感謝の言葉が欲しいわけじゃない。ただ、働く理由。遣り甲斐や地位とは別の、働く理由が欲しいのだ。
 自分を必要としてくれている……自分が支えてやらなければ駄目になってしまう……
OLをしながら池袋のスナックで働く彼女は、芦村の心を完璧に満たしていた。それでも彼女は彼に連絡しなかった。

「やつれた姿を俺に見られたくないんだよ。」
「うん、そうだな」

 近々もう一度、彼と飲むことになりそうだ。