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Thistle’s blog

ある中年オヤジの独白

広告定例

 今日は、最近担当させていただいたマンションの広告定例。一応、クリエイティブ・ディレクターのようなお仕事をさせていただいている。

 ところで、仕事は人生の何%くらいを占めるのだろう。
 芝居や映画、美術館や図書館も好きだけれど、どれも趣味と云える程のものでもないし、比較的個人的な場であっても、結局仕事に関連した話が中心になってしまう。
 これはさびしいな。けれど、そのために無理矢理趣味のようなものを持つのはもっとさびしい。

 最近は、プライベートではできるだけ仕事の話に触れないように心がけている。
 今後も、仕事の話はあまり書かないと思う。

女性の魅力

 周囲からどう思われているかは別として、自分は一人の女性と長く付き合う方だと思う。
 もちろん、新しい出会いに気分が高揚しないわけではないけれど、大抵は相手に対する興味が続かない。美人でお洒落にも気を使い物腰も丁寧な……そんな女性であっても、話題やテンポが合わないと、途端に興味を失ってしまうようだ。

 今は自分にとって、夢実と飲むのが何よりの楽しみだ。息を飲む程の美人ではないけれど、話題も豊富で打てば響くようにテンポが合う。好奇心や探究心が旺盛なのも魅力だ。

 結局、女性の魅力はその容姿にあるのではなくオツムとハート。お酒が強ければなお宜しい。
 この歳になって、しみじみとそう思う。

田村社長

「紫音ちゃん久しぶり」「こちらが前に話した木村さん」
 お酒が飲めない田村氏が、数年前からキャバクラに目覚めてしまった。もっともこれは自分にも罪がある。経営する制作プロダクションのスタッフ管理に悩む彼に、色管理を教えるためにキャバクラを利用したのがいけなかった。現在はマネージャーの範子を愛人にして、会社も順調のようである。範子の夫が所属カメラマンと云うのも、お決まり過ぎて笑える。

「木村さんはね、有名なカメラマンでね。いまそこのタワーの広告もやってるんだ。」
「一番高い部屋は4億だってよ。」「二人ならそんなに広い部屋は要らないけど、紫音ちゃんはどんな部屋がいい?」
 タダ酒に文句を言うものではないけれど退屈。横に座ったヘルプ嬢が大人しいのがせめてもの救いかな。

「そうだ、紫音ちゃんグラビアやりたいって言ってたよね。」「木村君に撮ってもらいなよ。俺から頼んであげるよ。」
 やっぱりこれか……

 こんな遊び方は教えなかったはずだけどな。

エリカ

「妊娠してるんです。」
「飲んじゃダメじゃん。」
「助けてくれませんか?」
 アフターに着いて来たエリカは和光にある大学に入学したばかり。家は裕福なのに、六本木のガールズバーで働いている。今日初めて行った店で知り合った。

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「借金とか生理的に無理なんです。」「でも、出会い系とか怖くて。」
「ちょっと待ってよ、それで俺?」
「わたしとホテルいってくれませんか?わたしじゃだめですか?」

 不思議な倫理観を持った子が、シャワーを浴びている……

芦村の恋


 「彼女が入院した。難病なんだ…」真顔になった芦村が苦しげに言葉を吐き出す。彼は高校の同級生。中堅ゼネコンに勤めている。
 基本的に治療法のないその病気は、対処療法と延命治療を施しながら死を待つだけのようで、それが明日なのか十年後なのかも予測できないそうだ。
 彼女は芦村に入院を知らせなかった。彼にとってはそれもショック。いや、実はそれがショックなのだろう。

 夫婦生活を長く続けていれば“お父さん”になってゆく。感謝の言葉が欲しいわけじゃない。ただ、働く理由。遣り甲斐や地位とは別の、働く理由が欲しいのだ。
 自分を必要としてくれている……自分が支えてやらなければ駄目になってしまう……
OLをしながら池袋のスナックで働く彼女は、芦村の心を完璧に満たしていた。それでも彼女は彼に連絡しなかった。

「やつれた姿を俺に見られたくないんだよ。」
「うん、そうだな」

 近々もう一度、彼と飲むことになりそうだ。

千穂

 千穂は短大を出て、都内のデベロッパーで総合職をしている。付き合って3年になる同じ年の彼は、大手商社の内定を得て、現在インターンに忙しい。彼女の実家のそばで週末同棲のような暮らしをしている。

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 久しぶりに千穂と飲むことになった。もともと酒が強い彼女ではあるけれど、今夜のペースはいつもより速い。
「彼が合コンに行ってたの。それも何度も…」「研修って、嘘を吐いて…」
彼に対する不満や将来への不安を語りながらグイグイと飲んでいる。一口で口に含む酒の量がいつもより多い感じだ。
 くやし紛れに自分も合コンに行ったこと。そこで知り合った男性と既に何度か会ったこと。その男性からアプローチを受けていること。
これでは駄目だと思い、彼のために料理教室に通い始めたこと。
今すぐにでも彼と結婚したいと思っていること。

 不遇の時代を支えてくれたパートナーと別れてしまうなんて、世間にはよくあるだろう。社会に出て視野も広がり、何よりも社会人に囲まれて暮らしている千穂と、学生生活の最後を楽しく過ごしたい彼。相手を裏で支えることに喜びを見出したところで、価値観が違ってしまったカップルに未来はない。尽くすという行為は結局のところエゴだもの。

「なぜ俺に相談しようと思ったの?」
「木村さんはエロいけど、なんだかんだわたしのことを考えてくれるから」